大津地方裁判所 昭和32年(ワ)88号 判決 1958年12月09日
原告 日本産工株式会社 外一名
被告 田中安 外六名
主文
原告等の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実
原告等訴訟代理人は、被告等は原告等に対し別紙図面に示す滋賀県甲賀郡信楽町地内登録番号同県採掘権登録第五九号鉱区内において亜炭及び耐火粘土を採掘してはならないとの判決を求め、その請求の原因として、
原告等は滋賀県甲賀郡信楽町地内の別紙図面表示の鉱区面積二十八万七千八百五十三坪の範囲において亜炭及び耐火粘土の採掘権の登録を受け(滋賀県採掘登録第五十九号)現にこれ等の鉱業権を共有しているものである。
然るに被告田中、同村岡、同楠山、同大西、同奥田、同辻本等は昭和二十八年十一月九日陶器原土の採掘販売を目的とする信楽原土採掘企業組合を設立し、右田中、村岡、楠山、大西、奥田は各理事、右辻本は監事に就任して現在に至つたものであるが、同組合は設立登記を経たものの未だ組合として事業を開始する運びに至らないので、前記被告等は各個人の資格で右組合の構成員として参加していない被告岡本と共同或いは単独でそれぞれ原告等共有に係る右鉱区内において、昭和二十九年十月一日より同三十二年九月末日迄の間被告等各自が各個の場所で従業員平均三名宛を使用し一日一ケ所につき亜炭三百六十貫、耐火粘土一千八百貫を採掘し、月間稼働日数二十日としても計七百二十日間に一ケ所のみについても総量亜炭二十五万九千二百貫(約九百七十屯)耐火粘土百二十九万六千貫に及ぶ数量を盗掘し原告等の鉱業権を侵害している事実が判明した。原告等は被告等に対し直接或は大阪鉱山局を通じ被告等の盗掘を中止するよう申入れたが被告等は依然盗掘を継続しこれに従わないので本訴に及んだ旨陳述し、被告の主張に対し鉱物たる耐火粘土は鉱業法第三条に規定する如くゼーゲルコーン番号三十一以上の耐火度を有するものであつて、該耐火度を測定するには粗鉱原石について為すものではなく、それを水簸したる精製物について為さるべきものである。
仮りに然らず被告等の現に盗掘した粘土が鉱業法第三条にいう耐火粘土に該当しないとしても、採掘権の許可されている事実よりしても同鉱区内に鉱物たる耐火粘土や亜炭が混在することは容易に推断せられるところである。しかも耐火粘土の鉱物性は右の如く耐火度測定によつて始めて決することができるのであつて、自然状態に於てこれを外観的に判別することは困難で、ゼーゲルコーン番号三十一以上の耐火土を有するものとそれ以下のものとが他の鉱物に於ける如く別個に存在するのではなく混在しているのであり、又亜炭とも層を接しているのであるからいま被告等が信楽焼原土を採取するに当つて右三十一以上の耐火粘土及び亜炭を除外して三十以下の耐火土を有する陶土のみを採取することは至難と見るべく将来被告等の採掘進展に伴い必ずや原告等の有する耐火粘土並に亜炭の採掘権を侵害さるべく、その虞十分なりといわなければならない。鉱業権は本来土地所有権の作用を制限する権利であつて、鉱区内の鉱物は土地の所有者と雖も鉱業権に基かなければ採掘することができないことはもとより、被告等主張の如く鉱物でない陶土を採取するとしてもその採取に当つて鉱物の侵掘を伴う場合はやはり採掘権の侵害を免れないのであつてその限りに於て土地所有権の行使は鉱業権によつて制限を受けるものといわなければならない。よつて被告等に対し採掘権侵害の排除並予防を求める為本訴に及んだと述べ、
立証として甲第一乃至三号証、同第四号証の一、二、同第五号証の一乃至三、同第六号証、同第七号証の一乃至三、同第八乃至十一号証、同第十二号証の一乃至三を提出し、鑑定証人小川吉克の証言を援用し、乙第三号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立を不知と述べた。
被告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告等が主張のような亜炭及び耐火粘土の採掘権を有していることは認めるが、被告等が右鉱物を採掘し原告等の採掘権を侵害したとの事実はこれを争う。被告等はこれまで嘗て原告等の鉱区より鉱物たる亜炭や耐火粘土を採掘したことはない。又将来に向つてもさような侵害を生ぜしめる虞は存在しない。従つて原告等の妨害排除予防を求める本訴請求は訴の利益を欠如するものというべきである。以下これを詳述する。
(一) 被告村岡は原告等の鉱区より何ら採掘したことはなく、又他の被告等の行う採掘(これとても鉱物ではなく単なる粘土であるが)に共謀している事実もないから、同被告に関する限り原告等の本訴請求は全く失当である。
(二) 右村岡を除く他の被告等に於ても鉱物たる亜炭や耐火粘土の採掘をしたのではなく信楽焼の原料として使用する粘土を採取したに過ぎない。即ち被告等は農家であるが傍ら信楽焼原土の採取をも営むものであつて、原告等主張の広範囲の鉱区の一部分に被告田中は自己の土地を所有し、所有権に基き地中に存する信楽焼原土を採取するものであり、被告大西は訴外今井末次郎より同人に年額金四千円の対価を支払つて、又その余の被告奥田、楠山、辻本、岡本は信楽町大字西部落所有の土地を各自年額金五百円の対価を以てそれぞれ地中の信楽焼原土を採取する権利を得これに基いて採取を行つているのである。而して被告等の採取する信楽焼原土が鉱物たる耐火粘土でないことは次項に述べる如くである。
(三) 鉱業法第三条によれば、鉱物たる耐火粘土はゼーゲルコーン番号三十一以上の耐火度を有するものと定めている。而して右耐火度測定の基礎とすべきものは水簸精製後の耐火粘土によるのではなく、未だ精製されざる原石の状態を以て測定さるべきであることは通商産業省の通達によつて明白なところであり、鉱業権が一定の土地より鉱物を採掘取得する権利である以上その鉱物が精製されない自然状態の原鉱石を意味するものでなければならないことは言う迄もないところである。従つて鉱物たる耐火粘土が水簸精製される以前の原石としてゼーゲルコーン番号三十一以上の耐火度を有するものを指称するのであることは全く疑を容れないところである。被告等の採取せる信楽焼原土が右耐火度以下の単なる粘土であることは屡々の耐火度測定の結果により明白であつて、被告等は鉱物たる耐火粘土を採掘し来つた事実はないのである。然れば非鉱物たる信楽焼原土を所有権に基き或は契約上の採取権に基き採取することは被告等の当然の権利であつて原告の採掘権を侵害するいわれはない。
(四) 被告等が亜炭の採掘を行つたことのないことは前述の如くであるが、ここで特に言及すべきことは一般に亜炭層は粘土層と密接している関係上粘土を採取せんが為に亜炭を剥離さすことがあり得るとゆうことである。被告等は信楽焼原土を採取するについて現に約二屯の亜炭を剥離し現地に集積して原告等にその引取を申入れている。この亜炭の剥離をもなお採掘と呼ぶか否かは別として、土地の所有権の内容を為す非鉱物の採取につき不可避的に生ずるこの剥離が亜炭採掘権の侵害となると云えないことは明らかである。そうでないとすれば亜炭の採掘権が亜炭そのものの採掘権である以上に所有権に基く非鉱物の正当な採取行為をも違法化する内容を持つに至るからである。しかしながら採掘権がかような所有権に優位するものでないことは多言を要しない。ただその剥離も方法や程度により亜炭採掘権に重大な影響を及ぼし採掘権の侵害と同視すべき場合もなしとは云えない。かかる場合には土地所有権の行使も制限を甘受しなければならないことも考えられる。しかしながらこのことは同時に逆に採掘権の行使につき土地所有権に対し不可避的に生ずることのある侵害についても言えることであつて、採掘権と土地所有権との利益衝突の調整を如何にすべきかの問題である。かかる場合は土地の使用と鉱物採掘の各具体的事情を比較しそれぞれの社会的価値を較量し互譲により解決すべきものと解せられる。いま被告等の右亜炭の剥離を仮りに採掘権の侵害と同視すべきものであるとしても、本件鉱区内に於ける亜炭層は極めて少量であり而もその層は稀薄であつてこの薄層を追つて亜炭採掘を事業化することは採算のとれぬ程度のものであつて、鉱業法第三十五条に照し本件鉱区に亜炭採掘権を許可したことの当否が疑われる程であり、嘗て本件鉱区内に於て亜炭採掘が事業として行われたことがあるがそれも被告等の採取せる現場より程遠く距つた箇所であり、被告等が各自独立に行う採取面積を合しても数十坪を出ないに反し本件鉱区は二十八万七千八百五十三坪の広汎に及び、被告等の採取現場に存する亜炭はまことに微量と見るべきである。かように少量の経済的に鉱業化する価値をも有しない亜炭の存在の故に被告等の歴史を有する信楽焼の原土を採取することが阻まるべきであろうか衡平の観念よりしても然らざることは明白であつて前記程度の亜炭の剥離は許さるべく何等採掘権の侵害となるものと云い得ない。
(五) 被告等がこれまで鉱物たる耐火粘土を採取したことのないことは前述のとおりであるが被告等の各自の採取現場にゼーゲルコーン番号三十一以上の耐火度を有する鉱物たる耐火粘土が皆無であると迄は断定し得ない。従つて仮りに鉱物たる耐火粘土の微量が存在しその混入が避けられないものとしてもその場合に於ける耐火粘土採掘権と土地所有権との利益衝突は前記(四)に於て述べたと同様に解すべきであつて被告等の陶土採取が禁ぜらるべき理由はない。
以上被告等はこれまで原告等の採掘権を侵害した事実は全くなく、又被告等が今後その侵害を為すやもしれぬという現存の危険性も存しないのであるから、本訴請求は訴の利益ありと云えず、単に原告等が採掘権を有する事実のみから当然に本訴の許さるべき筈はないのであるから、原告等の請求は失当として棄却さるべきであると述べ、立証として乙第一乃至三号証を提出し、証人西尾登志夫及び同草開勝治の各証言を援用し、甲第一乃至三号証、同第四号証の一、二、同第五号証の一乃至三、同第十二号証の一乃至三の各成立を認め爾余の乙号各証の成立はいずれも不知と述べた。
理由
原告等が主張の如き亜炭及び耐火粘土の採掘権を共有していることは当事者間に争がない。そこで被告等が右採掘権を侵害し或は侵害する虞があるか否かについて判断する。
被告村岡が本件鉱区より亜炭並びに耐火粘土を採掘したとの事実や同被告が他の被告等と共同し他の被告等の採取行為を通じて採取していると見られるとの事実については本件各証拠上これを認むべきものは全く存しない。従つて同被告に関する限り現在迄侵害の事実なく将来侵害を生ぜしめる虞が顕在するとも認められないから、同被告に対する原告等の本訴請求は失当として棄却を免れない。
右村岡を除くその余の被告等六名(以下単に被告等と称する)が本件鉱区内の一部分の土地六ケ所をそれぞれ掘採し信楽燒原土として使用する粘土を採取していることは同被告等の自認するところである。原告等は被告等の採掘している右粘土が鉱業法第三条に規定するゼーゲルコーン番号三十一以上の耐火度を有する鉱物たる耐火粘土に当る旨主張するのでこの点について案ずるに、同法第三条は右耐火度を以て鉱物たる耐火粘土と非鉱物たる耐火粘土とを識別しているのであるが、証人草開勝治の証言によれば右耐火度の測定は通商産業省通達(昭和三十年五月十四日三十鉱局第四四一号)に基き、原土の状態に於て測定すべきものとされ、鉱業関係に於て広くこれに基いて識別されている実状であることが認められる。而して当裁判所の見解も右と異るところはない。従つて原告等が右耐火度の測定基準を原土である粗鉱によるべきではなく精製水簸した耐火粘土によるべきものとする点は独自の見解として採り得ない。そこで右測定基準に従つて被告等の採取せる耐火粘土が右基準以上の耐火度を有するやについて見るに、成立に争のない甲第四号証の一、二によれば耐火度三十二度の実験結果が存するけれども。鑑定証人小川吉克の証言に徴すれば右実験試料は原告等によつて提供されたものではあるが被告等の採掘に係るものとは見られず又その測定の基礎も原土によつたものと断定し難くむしろ精製水簸したものによつたとの疑を抱かせるに足るから、右実験結果は被告等が鉱物たる耐火粘土を採掘した事実の証拠とするに足りない。しかしながら右小川吉克の証言及び成立に争のない甲第五号証の三(本件の証拠保全手続に於ける鑑定書)によれば被告等の採取現場に於ける耐火粘土の実験の結果として原土によつて耐火度ゼーゲルコーン番号三十一以上を示したものが混在している事実が認められるからその限りに於ては被告等は信楽焼原土の採取として常に耐火度三十以下のもののみを採取しているとは云えず、三十一以上の鉱物たる耐火粘土をも採取したことがあると見なければならない。而してその数量が幾何に及ぶかは本件各証拠上明らかではないが必しも右実験に顕れた微少量のみに止るものと断じ難いことも当然である。しかしながら成立に争のない乙第三号証、証人西尾登志夫の証言により成立を認められる乙第一、二号証及び証人西尾登志夫、草開勝治の各証言並に口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、被告等が採取現場に於て採取した耐火粘土の耐火度測定の結果はすべて三十一未満であつて、元来信楽焼なるものは原土の耐火度も二十度乃至二十八度を適当としそれより高度の耐火度を有する粘土はむしろ信楽焼原土としては不適当であること、原告等よりの盗掘の申立により監督官庁である大阪通商産業局係官が本件鉱区に臨み被告等の採取に係る各現場に於ける耐火粘土を試料として実験した結果はすべて耐火度三十以下のものであつて、被告等は鉱物たる耐火粘土を採取するものではないとの一応の結論を下していたが被告等の粘度採取により亜炭層侵害の生ずることを取上げて両者間の協調を試みたことがそれぞれ認められる。右認定事実に反する証拠は存在しない。そうだとすれば二十八万余坪の本件鉱区中被告等の採取せる僅少の現場に於ても前記実験の結果の如く耐火度三十一以上の耐火粘土が存在しないとは言えないけれども、その量は多からず被告等の採掘範囲では極めて微量のものであろうことを推認し得るところであり、又被告等の採取は鉱物たる耐火粘土を採取することを企図せるものではなく、証人西尾登志夫の証言により窺える如く被告等は屡々耐火度測定を依頼している事実よりしても、極力採取粘土が耐火度三十一以上に及ぶことなきよう留意し、非鉱物たる耐火粘土のみを採取することを目的としてきたものであると言うことができる。ところで成立に争のない甲第五号証の一、証人草開勝治の証言によれば、本件鉱区中被告等の採取現場に於ては鉱床は亜炭と耐火粘土層より成り両層は互に密接不可分の関係で重なり合つており、又耐火粘土の鉱物性即ち耐火度三十一以上の有無は専門知識を以てしても耐火度測定実験を俟たねば外観的に識別することは不可能であることが認められる。従つて信楽燒原土として被告等が非鉱物たる耐火粘土を採取するに当つて前記の如く屡々の耐火度実験により三十一以上の耐火粘土の採取を避けることに極力留意しているとしても、耐火粘土中に三十一以上のものをも含む場合にはその一部が混入することは技術的に不可避と見るべく、又亜炭との関係も同様に耐火粘土の採取につきこれと接する亜炭層の一部を剥離することなしには耐火粘土のみの採取を期待し難いものであるとゆうことができる。これを逆に言えば鉱物たる耐火粘土や亜炭のみを採掘せんとしても非鉱物たる耐火粘土の混入することは到底避けられない関係に在ることも明らかである。
鉱業権は鉱業法所定の法定鉱物のみの採掘取得を認める権利であつて、鉱物が地下鉱床に埋蔵されている関係上鉱業権行使の為には必然的に地表及び地下の使用を伴い従つて土地所有権乃至使用権との利害衝突が避けられないのであるが、鉱業権自体の効果として土地所有権等に優位して鉱区範囲の土地を自由に使用すること迄をも認められているものではないから、土地所有者等の協力を得てその損失を補填して契約により土地使用権を獲得すべきことが当然予定されているのであるが、その協力を得られないときには鉱業の公益性の故に一定の条件のもとに所轄官庁の許可を以て鉱業権者の利益と土地所有者の利益とを調和せしめ土地所有者の利益を不当に侵害しない範囲に於て公法上の土地使用特権が認められる。而して鉱業権者が地表の使用権を有する場合には通常地下の掘さくについては土地所有権の行使に格別の支障を与えるものではないが故に地下の使用につき土地所有者の承諾を必要とするものとは解されていない。しかしながら本件の場合の如く土地所有者等が地中の非鉱物たる耐火粘土等土地の所有権の内容を為す限りの物の採取を事業とする場合に於ては鉱業権者の地下使用は当然その制限を受けるべき筋合であつて、その点について土地所有者等との協調を経なければならない。而してその協調の見込なく双方の利害衝突が打開できないときに於ても一般的に鉱業権の有する公益性上放置することは妥当ではないのであつて、かかる両者の利益衝突はその何れかをして他方の権利を侵害するもその損失を賠償せしめることによつて敢えて優先行使することを承認し、他方の権利にこれを受認せしめることとなつても己むを得ないものとしなければならない。而してそのいずれかを優越せしめるかは両者の経済上及び社会上の価値判断によつて定める他はないであろう。本件についてこれを考察するに、前記の如く被告等は土地所有権等に基く非鉱物たる耐火粘土の採取を目的とするものであるが、その採取に当つては微量とは云え耐火度三十一以上のものの混入を避けることは不可能であり、又亜炭についてもたとえ被告等に亜炭を採取する意思はなくとも炭層を剥離、移動せしめる限り原告等の採掘権を侵し又は侵すことが予期されるのであるが、他方原告等が鉱物たる耐火粘土、亜炭の採掘に当つても被告等の権利の対象である非鉱物たる耐火粘土等の混入を生じ、同様所有権等侵害の問題を生ずることは避けられないのであつて、前述のように被告等が信楽焼原土として耐火度の高いものの採取を必要とせず、屡々耐火度の実験を行つて三十一以上の粘火度のものの混入することなきよう留意し非鉱物たる耐火粘土のみの採取を目的としてきたこと、被告等の各採取現場に於ては鉱物たる耐火粘土は存在するとしても極めて少量であり、又前出甲第五号証の一、証人草開勝治、小川吉克、西尾登志夫の各証言によれば、被告等の採取現場に於ける亜炭は木質が炭化を進めたとゆう程度のものであつて上質のものではなく、しかも三寸乃至五寸程度の薄層として存在するに過ぎないことが窺え更に被告等は剥離した亜炭を一定個所に推積して原告等の引取に備えていることが弁論全趣旨により認められるから、被告等に於て信楽焼原土の採取を行うとしてもこれ迄と同様原告等の採掘権の侵害を避けるべく慎重を期しその採取に不可避的に伴う微量の鉱物たる耐火粘土、亜炭の侵害を伴うに過ぎないであろうこと及び原告等が長きに亘つて採掘に着手せず休業状態を継続していることが推測し得る本件に於ては原告等の採掘権に優越を認めることは当を得ないのであつて、被告等の所有権等に基く権利行使の前に譲歩し原告等は右によつて損害を生じた場合その補償を求めることによつて受認しなければならないものと思料される。
以上によれば被告等の信楽焼原土採掘行為はこれによつて右程度の採掘権の侵害を生ずる虞ありとしても同人等の土地所有権ないし使用権に基く正当な権利行使として原告等の受認すべきものであるから被告等に対し採掘禁止の行為を求める原告等の請求は容認し難いものといわねばならない。よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 小野澤龍雄 林義雄 古川秀雄)
図<省略>